山梨市の山間部。
巨岩の上に地蔵尊の首が載せられた首地蔵なるものがあると聞き付け詣でに赴いた。
甲府へと抜ける太良峠へ向かう道中に首地蔵はあった。県道の小道をわざわざ避けるように不自然に置かれている。
なんと不気味で奇怪至極な体貌だろうか。私は真昼に訪れたからいいものの、夜半に何も知らずこれを見た者は吃驚の声をあげるに相違ない。
徐々に近づいていこう。
首下の巨岩に掛けられている白布には南無延命地蔵と書かれている。
南無は『信じます』とか『帰依します』の意味があるので『延命地蔵として信仰します』といった意味だろうか?
首地蔵には悲しい伝承が残る。
どうせなので現地にあった案内板を引用しよう。
首地蔵
昔、大雨が続いて山の地盤がゆるみ、大きな土砂崩れが起きて中組の数軒の家々をつぶしてしまった。
その時に転落してきた大きな岩の下敷きになって御子守さんの娘が背負った赤ん坊とともに死んだ。一説によるとその娘はオミヨという十二才の少女であったという。
それ以来村の赤ん坊がひどい夜泣きをしたり、何かにおびえるようになって娘の霊が祟っているとうわさされた。
落ちてきた大岩からも夜になるとすすり泣きの声が聞こえてきたという。
そこを訪れた旅の僧が、娘の慰霊のために石を彫って地蔵の首を作り、巨岩の上に乗せて供養をしたところ赤子の夜泣きもすっかりおさまった。
それ以来村人たちは首地蔵に香華をささげて供養を怠ることがなかったという。
ある時、道路が拡張されることとなって首地蔵の巨岩が邪魔になり岩を割って撤去することとなった。
石屋が岩に穴を開けたところその石屋は家に帰った後、高熱を出して苦しんだ。
娘の霊が祟っているということになり、工事は中止されて、今でも地蔵は道路端に残され岩が道路に少しはみ出たままになっている。
またこの岩はもとは道路の反対側にあり、道路の舗装工事の際に現位置に動かしたところ事故が起きて工事人夫が大怪我をしたとも伝えられている。
平成二十四年 三月 水口区 中組
巨石巡礼という老舗のサイトに長野県の万治の石仏と絡めて首地蔵が紹介されている。
上で引用した案内板よりも昔の案内板(平成十二年三月ver.)を記載しているので気になる方は読んで見るといいだろう。
ちょっと文言や内容が違っていて興味深い。
首地蔵の背後へ周る。絶壁である。
ここは心霊スポットとして知られている。これほどに霊の根拠がはっきりしていると清々しい。
交通量の少ない県道なので、道路拡張によって破棄される可能性は少ないだろうが、大変珍しいものであるし、これを管理する地区の人口も減少しているに違いないから、可能であれば史跡に扱いにして自治体で守って欲しいと切に願う。
終わりに
最後は尊顔のドアップを。
伝承の話の筋としては『触らぬ神に祟りなし』である。
よって悪さをしなければ何も起こらないと言い切ってよいだろう。
オミヨの悪霊は神霊に昇華し信仰の対象となり、地域の守り神的な意味合いを持つに至ったのではなかろうか。
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