海鳥・ウトウの悲話が伝わる善知鳥峠

善知鳥峠

長野県塩尻市にある善知鳥峠。

峠は分水嶺となっていて、そこには小さな公園が設けられている。一方の流れは『権現川より信濃川をへて日本海へ』もう一方は『善知鳥山川より天竜川をへて太平洋へ』注ぐ。

善知鳥は海鳥の一種。これで『ウトウ』と読む。

『ウトウ』は能の演目として知られている。仏教由来の不条理を漂わせる重く物悲しい内容である。

とある僧侶が、猟師の亡霊から『私の妻と子の家に行って、弔ってほしい』と依頼を受ける。そのとき亡霊は証拠として着物の片袖をほどいて渡し、僧侶の前から消えた。

僧侶は猟師の妻子の家を訪ねた。その家に残っていた猟師の着物には片袖がなく、亡霊から渡された袖と一致したのである。亡霊の願いが真実だったとわかったので、猟師の霊を弔った。

すると、猟師の亡霊が現れ『ウトウをはじめ、多くの鳥獣を狩った罪により非常に苦しんでいる』と訴える。地獄では怪鳥に変じたウトウから、ひどい拷問を受けている様子を見せて『どうしても助けてほしい』と伝え、僧侶の前から消えた。

この物語と善知鳥峠に直接的な関係はありません。

善知鳥峠

山ひだをぬうこのような地形のところを、東国の方言で『ウトウ坂(峠)』と呼ばれていることから、善知鳥の地名になったと考えられる。

また、海鳥の『うとう(善知鳥)』をこの山に葬ったことからこの地名が生まれたという伝説も語り継がれている。

現地案内板 善知鳥峠と分水嶺公園より

この峠の由来は民話としても語り継がれている。

陸奥国(東北地方の一部)の猟師がウトウの巣を見つける。

猟師は親鳥の声真似をして雛鳥を誘い捕らえた。ウトウは大変珍しい鳥だったため都の領主の元へ届けるために旅立つ猟師。

親鳥は雛鳥を諦めきれず悲しく鳴きながら猟師を追ったが、塩尻の地で猛吹雪に見舞われ、とうとう命を落としてしまう。

雪上で横たわるウトウを見つけた里人は、その死を哀れに思い弔った。

テレビアニメ『まんが日本昔ばなし』でもこの民話が紹介されている。

少し内容が異なっていて、猟師には悪人の属性が付いており、連れの子供がいる。吹雪によって猟師とウトウの親鳥は死んでしまうが、子供と雛鳥は生き延びたという結末になっている。『悪人であろうと動物であろうと子を想う親の気持ちは変わらない』みたいな感じだろうか。物語としてはこちらの方が馴染みやすい気がする。

民話として語り継がれている善知鳥峠の由来だが、案内板が紹介するとおり後付けで『善知鳥』の漢字を当てたのが本当のところなのだろう。

 

終わりに

善知鳥峠

善知鳥峠には心霊スポットの噂が流れている。どうやらテレビ番組で取り上げられた過去もあるようだ。

女性の霊が出るというのだが、その根拠ははっきりしていない。

交通事故が云々と紹介されることもあるようだが、交通事故なんて日本全国そこらじゅうで起きているわけだから、それを根拠にするのは『なんだかなぁ……』と首を傾げたくなる。峠に伝わる『ウトウ』の悲話を絡めた怪談的な噂であったら『良くできた話だ』と素直に感心したのに。

まぁ、私には幽霊が見えないので、見る人が『いる』と言えばそれまでなのかもしれないが。

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