景親追武衛之跡 搜求嶺渓 于時有梶原平三景時者 慥雖知御在所 存有情之慮 此山稱無人跡 曳景親之手登傍峯 此間武衛取御髻中正觀音像 被奉安于或巖窟 實平奉問其御意 仰云 傳首於景親等之日 見此本尊 非源氏大將軍所爲之由 人定可貽誹云々 件尊像者 武衛三歳之昔 乳母令參籠淸水寺 祈嬰兒之將來 懇篤歴二七箇日 蒙靈夢之告 忽然而得二寸銀正觀音像 所奉歸敬也云々
吾妻鏡 第1巻より
大庭景親が頼朝様のあとを追って、山の中を探し求めた。
ここに梶原景時がいた。景時はたしかに頼朝様の居場所を知ってはいたけれども考えがあって『この山には人のいた形跡がない』と言い、景親の手を引いて傍らの峯に登った。
この間に頼朝様、髻の中の正観音像を或る岩屋に奉じられる。土肥実平がどういう意味があるのか伺うと『景親たちに自分の首が取られる際にこの本尊をみたら、源氏の大将軍らしからぬ奴だと誹りを受けてしまうからだ』ということであった。
件の尊像は頼朝様が三歳の昔、乳母が清水寺に参拝して嬰児の将来を懇篤に祈ったところ、二七日(14日)過ぎて夢でお告げがあり、俄に二寸の銀の正観音獲を得たため、心の底から仏を信じている云々。
伊豆国で挙兵した源頼朝が石橋山の戦いで平氏方に敗れて潜んだとされる”或巖窟”。
現在、その”或巖窟”は『しとどの窟』と呼ばれている。『しとど』はホオジロ科の小鳥の古名を指す。
覇道を突き進んだ源頼朝が、ギリギリまで追い詰められ侘しい心持ちで数日間過ごしたと伝わる山奥の洞穴。
ここから天下の将軍に上り詰めたのである。歴史好きにとってはなんと心が躍る場所であろうか。
しとどの窟へのアクセス
湯河原と箱根を繋ぐ椿ラインの道中に位置している。
ちょっと小さくて分かりにくいかもしれないが、目印は『しとどのいわや』のバス停留所案内表示板。
広めの駐車場が二ヶ所あるので自動車でもバイクでも問題なく行ける。
しとどの窟への道のり
山の中の400mは平面の400mとはわけが違う。
行きはつづら折りの急坂を下りて行く。
ところで”四〇〇百米”とあるけれど、”百”はいらない、或いは”四百米”の表記でよかったのではないだろうか?
これだと40kmになってしまわないか。
参道の両脇には灯篭や石仏が立ち並ぶ。
石仏は古めかしく歴史を感じられるが、灯篭はそれと比べると新しい感じだ。
訪問日は2022年1月1日。正月だからこそ出掛ける心掛けをしている。
到着時点で17:00を超えていたため日は落ちかけ薄暗くなっていた。
ようやく到着。
椿ラインの入口から15分程かかった。
かなり急いで駆け下りたのでゆっくり歩けば20分以上かかる道のりだ。
これが源頼朝が隠れ潜んだと伝わるしとどの窟。
思っていたより奥行きはなかった。
しかしまぁ、時間帯が悪かった。暗すぎる…。
石碑や石仏をひとつひとつ確認して周りたかったが難しかった。
上で土肥椙山巖窟は神奈川県の史跡に指定されているとお伝えしたが、土肥椙山巌窟内観音像群として湯河原町指定文化財にも登録されている。
観音像ということは吾妻鏡にある源頼朝の観音信仰に関係しているのだろうか?
この観音像群は立像及び座像六十一体で小松石に彫刻され、これが安置されている巌窟と共に中世以後近郷庶民の信仰習俗を知る上に貴重な資料である。
観音像は無銘が多く銘があっても解読不能であるが中に嘉永六年、元治元年、新らしいもので大正十五年のものがあり、これらが近郷の人々により長期的に奉安され続けて来たこと、ひいては巌窟を含むこの地が古くから観音信仰の聖地であったことを物語るものである。
史跡 土肥椙山巌窟内観音像群の現地案内板より
嘉永六年は西暦で表すと1853年。黒船が来航した年である。
思ったより古くないね?
嘉永六年、元治元年よりも昔のものもあるかも。
吾妻鏡は鎌倉時代に編纂された書物なので観音像が奉じられた”或巖窟”の存在自体はかなり昔から知られていたとは思うが『”或巖窟”=しとどの窟』として知られるようになったのはここ最近なのかもしれない。
ちなみに”或巖窟”の候補地が神奈川県真鶴町の『しとどの窟』にもある。どちらが本当の『しとどの窟』なのか今となっては分かり得ない。或いは両方とも違う可能性だって考えられるだろう。
この謎もまた歴史の楽しさの一つであるに相違ない。
終わりに
『しとどの窟』は神奈川県屈指の恐怖度を誇る心霊スポットだと噂されている。
幾つかの心霊サイトを確認すると以下のように紹介されていた。
女性の霊が出る
首無し地蔵を三体以上見つけると死期が近い
確かに首の無い石仏は幾つか確認出来たけれども、観音像こそ多く見受けられたが、あの中に地蔵尊はどれほどあっただろうか?
迷惑を掛けないのであれば肝試し感覚で訪れるのを否定しないが、ここはおすすめしない。なぜならここは携帯電話の電波が届かないし、周囲に人家が皆無なため、万が一事故や事件に巻き込まれた際に救出が大幅に遅れてしまう可能性が高いからだ。
訪問するなら朝から日中にしよう。真昼の心霊スポットも悪くはない。
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