川端康成の怪奇小説【無言】に登場する小坪トンネルへ

小坪隧道

神奈川県鎌倉市と逗子市の境、名越切通の下部に6本のトンネルが並ぶ。

その内の名越隧道と小坪隧道は1883年(明治16)に地元の有志によって穿たれたトンネルが前身となっており、大正年間に拡張や補強が為された。坑口部のレンガ積みは当時の面影を残す貴重な土木史跡として認められている。

古風な隧道は時代から逸脱した特殊な風貌からか、しばしば奇異の目に晒される。このトンネル群も例に漏れず不思議で怪異的な現象の起きる場所として知られているようだ。中でも小坪隧道は心霊界隈でとりわけ著名である。

大抵の場合はトンネル特有の薄闇や閉塞感、不気味さに根拠の無い怪談チックな物語が肉付けされていく場合が多いのだが、ここはどうなのだろうか?何か怪異の根拠となりそうな事件や事故が起きた現場なのだろうか?

 

小坪隧道の場所

小坪隧道

JR鎌倉駅、逗子駅から徒歩25~30分程の距離にある。

駅からバスも出ているが名越経由の運行は極めて少ないため期待は出来ない。

自家用車でも行けないことは無いけれど交通量の多い場所なので駐車に困る可能性も。

時間が許されるなら鎌倉駅から各所を観光しつつ逗子方面に向かうコースをおすすめしたい。

 

 

名越隧道と新名越隧道

小坪隧道

鎌倉方面から向かうと最初に対面する新旧・名越隧道。

敢えて説明する必要は無いと思うが『左が旧』で『右が新』である。

名越隧道は大正年間に完成。長さは64.2m。幅6.06m。

新名越隧道の竣工年は1971年(昭和46)。長さは80mとの事。

 

逗子隧道と新逗子隧道

小坪隧道

左が新逗子隧道、右が逗子隧道。

逗子隧道の竣工年は1966年(昭和41)。長さは110m。歩道1.5m、車道6.5m。

新逗子隧道の詳細は不明。

 

新小坪隧道

小坪隧道

小坪隧道に並列する新小坪隧道。

1970年(昭和45)に竣工。延長140m。幅5.89m。

 

小坪隧道

小坪隧道

名越隧道と同様で具体的な竣工年は不明。大正年間に完成したと云われている。

長さは113m。幅6.06m。

 

小坪隧道と心霊

小坪隧道

6本のトンネルを総称して小坪トンネル群と呼ぶ事もあるそうだ。

怪奇スポットとしての歴史は案外古い。

川端康成の短編小説『無言』の中に小坪トンネルが登場する。

鎌倉から逗子へ車でゆくのには、トンネルを抜けるが、あまり気持のいい道ではない。

トンネルの手前に火葬場があって、近ごろは幽霊が出るという噂もある。

夜なかに火葬場の下を通る車に、若い女の幽霊が乗って来るというのだ。

川端康成 無言より引用

とある小説家の宅へ赴く道中、タクシーの運転手とトンネルに出る幽霊の話をする。

その夜、帰りのタクシーがトンネルを鎌倉側に抜けたところで異変が起こった。

恐れおののく運転手が後ろを振り返り…。

“坐っていますよ。旦那には見えないんですか。”と。

“見えないね。僕には見えない。”

トンネルの真上では無いが、名越隧道と逗子隧道の直ぐ近くに現在も操業中の火葬場がある。

 

小坪トンネルと火葬場

小坪隧道

出典:国土地理院/空中写真を切取・編集引用(1946/02/22(昭21)撮影)

赤い線が県道311号。まだ名越隧道と小坪隧道しかない時代の様子。

かなり古い空中写真だが、既に火葬場の位置に建物が存在していた。

当時から火葬場だったのか知る由もないけれど、もしそうならば長い歴史を持つ火葬場である。

 

小坪トンネルとまんだら堂やぐら群

小坪隧道

小坪階段口からトンネル群の上を抜けて名越切通とまんだら堂やぐら群方面へ行ける。

まんだら堂やぐら群の詳細は別記事で紹介するつもりだが、小坪トンネルの心霊話を語るに当たって外せない場所なのでざっくり説明しよう。

まんだら堂やぐら群は150穴以上からなる中世の大規模墳墓跡。かつては『まんだら堂』と呼ばれるお堂が建っていたようだが詳しい事は分かっていない。『やぐら』は崖や岩盤に掘られた横穴式のお墓のこと。その中に五輪塔が安置されているが、これは後世に別の場所から動かされたものが多いそうだ。

いちのまる
いちのまる

常にお目にかかれる訳ではなく期間限定で公開されるレアな史跡です。

まんだら堂やぐら群は小坪隧道から北に150mくらいの距離にある。

 

終わりに

火葬場と中世の大規模墳墓の存在が心霊スポットの原因になっているのは間違いない。十分過ぎる根拠である。

交通事故の多発地点と紹介されることもあるので、実際どうなのかと鎌倉市や逗子市の交通事故マップを確認してみたのだが、大きな事故が起きている気配は無く取り分け事故が発生し易い環境にあるとは言えない。過去を遡れば或いは大事故が発生しているのかもしれないが。

小坪トンネル群は上り下りが完全に分かれているため対向車同士の衝突事故はまず起きないだろうし、強いて言えばトンネルの間の合流地点に危険がありそうだけれども、ちゃんと信号に守られているので余程悪質な運転者に出会わなければ事故に巻き込まれる恐れはないだろう。

心霊現象としてはトンネルを通ると『女性や武者の霊が上から落ちてくる』『女性の霊がいつの間にか後部座席に座っている』『たくさんの手形がガラスにこびり付く』などなどと語られている。武者の霊は鎌倉や中世の墳墓から連想されたのであろう。女性の霊は何だろうか?

ここら辺の話はネット上で語り尽くされているので割愛しようと思う。『キャシー中島 小坪トンネル』などと検索すれば幾らでも情報が出てくるので、気になる方は調べてみるとよい。

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