茨城県鉾田市、旧大洋村の別荘地区画内に位置する廃墟・龍宮城。
神のお告げを受けた一人の老人が私財をつぎ込み自らの腕を振るってコツコツと築き上げていった物件だが、老人の病と死を発端に建物は崩壊の一途を辿った。
2022年(令和4)現在、龍宮城の殆どは放置状態で大方が倒壊しており、内外に繁茂した草木に覆われ、当時の名残を辛うじて判別出来る程度である。
老人がこの地に移住したのは1983年(昭和58)だった。
それまでは北海道でビルの不動産を経営していたが、不安定な世界情勢の煽りを受けて経営状況は酷く落ち込んでしまった。
落ち込んでゆく不動産経営に見切りを付け、彼は茨城県の大洋村(現・鉾田市)に移住を決心する。
神のお告げを受けたのは移住して間もなくだったと云う。
老人は『とある宗教』の熱心な信者であった。日頃から瞑想に耽っていたのだろう。龍宮城を造る切っ掛けとなったのは瞑想中の神との邂逅であった。
『人々の為に龍宮城を』という神のお告げを信じ、大金と自身の生命力を惜しみなくつぎ込んでいった。
『変わった爺さんが茨城にいる!』とテレビメディアが目を付ける。老人は何度も取材に受け、テレビ番組に出演した。誰もが知るであろう著名人に感銘を与えたという話も残っているそうだ。
興味を持った視聴者たちが大勢に龍宮城へ押し掛けたが、老人はそれらを無下にせず快く迎えている。
『人々の為に』が叶った瞬間だった。
時は経ち80歳を超えた老人は衰えてしまった。やがて病を患い病院から出れなくなった。そして2002年(平成14)、龍宮城を残してこの世を去った。
メンテナンスを受けなくなった老人の居城はみるみるうちに劣化した。素人が矢継ぎ早に建てたものだから当然の結果である。
もう30年も放置されている。恐らくはこのまま取り壊されることなく、自然と崩壊していくのだろう。
この記事は2007年(平成19)に発売された『廃墟本2』を大いに活用させていただいた。具体的な情報を知りたい方はリンクを貼るので購入して一読するとよい。まだ廃墟になってから間もない龍宮城を観ることも出来る。
終わりに
最後に。
竜宮城には幽霊出没の噂が流れている。何でも龍宮城の主人が妻を殺害し壁に埋めたという話があるのだ。上で紹介した『廃墟本2』でも妻の死に触れている。しかし文脈的には茨城県に移住する前、つまり北海道にいた頃に先立たれたと読み取れる。
ある程度、メディアに露出した龍宮城で死体遺棄が発覚したら間違いなくニュースになるが、噂が流布されているのみで具体的な情報は一切出てこない。
ほぼ間違いなくデマであろう。
『老人の龍宮城に対する強い想いが霊となって云々』みたいな話なら幽霊に懐疑的な私でも『なるほどな、そうだよね!』と同情のような念を抱いただろうけれど、このような半ば老人を中傷するような噂を流されては彼も浮かばれないと思うのである。
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